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京都地方裁判所 昭和36年(レ)51号 判決 1963年11月09日

判   決

大阪市生野区新今里町三丁目一一五番地

控訴人

室谷景士

右訴訟代理人弁護士

西村重次郎

京都市伏見区過書町七八三番地

被控訴人

中江卯一郎

右訴訟代理人弁護士

鈴木権太郎

右当事者間の土地建物所有権移転登記等抹消手続等請求控訴事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原判決中、別紙登記目録(4)、(6)の登記の各抹消登記手続の請求を認容した部分を取消す。

被控訴人の本訴請求中右請求部分について、本件訴を却下する。

その余の部分について、本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し、控訴人が金五七、一二三円を支払うのと引換に別紙登記目録(1)、(2)、(3)の登記の各抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。(以下省略)

理由

まず、被控訴人の本訴中、訴外阪井豊次郎のうけた抵当権設定登記(登記目録(4))および所有権移転請求権保全仮登記(同(6))の各抹消登記手続請求部分の被告適格について判断する。

大審院民事聯合部明治四一年三月一七日判決(民録一四輯三〇三頁)は、「地上権または抵当権の移転登記数次ありて所有権者がその地上権または抵当権の設定行為若しくは移転行為を無効なりと主張する場合には唯現に効力を有する登記の名義人に対してその抹消を請求するを以て足る。」と判示し、大審院民事第三部昭和一三年八月一七日判決(民集一七巻一六〇四頁)は、「甲が所有権移転請求権保全の仮登記を受けたる後該請求権を乙に譲渡し其の譲渡に因る附記登記を経由せる場合には第三者は乙のみを被告として右各登記の抹消を求め得べきものとす。」と判示している。

しかし、甲が抵当権設定登記または所有権移転請求権保全仮登記を受けた後、甲から乙へ抵当権または所有権移転請求権の譲渡による附記登記がなされた場合、甲が受けた抵当権設定登記または所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記の登記義務者は甲であり、乙が受けた抵当権または所有権移転請求権の譲受による附記登記の抹消登記の登記義務者は乙である、と解するのを相当とする。

けだし、甲、乙は、それぞれ自己の受けた登記について、独立の利害関係を有するのであり、右設例の場合と所有権移転登記が甲から乙へなされた場合とを異別に解する理由がないからである。

よつて、被控訴人の本訴中、登記目録(4)、(6)の登記の各抹消登記手続請求部分は、控訴人に被告適格がないから、不適法として却下を免れず、原判決中右請求を認容した部分を取消す。

そこで、被控訴人のその余の請求および控訴人の反訴請求について判断する。

本件不動産が藤田太郎の所有であつたこと、登記目録記載の各登記がなされたこと、控訴人が本件不動産中(三)の家屋(本件家屋)を占有していることは当事者間に争がない。

(証拠―省略)によれば、被控訴人は、昭和二七年一一月四日、藤田太郎との間に、同人に対し有する材木代金金五七、一二三円について、弁済期限を昭和二八年六月三〇日と定め、同人所有の本件不動産に対し抵当権設定契約を締結するとともに、藤田太郎が右債務を不履行のときは、被控訴人において右債務の代物弁済として本件不動産の所有権を取得しうる旨の代物弁済予約を締結し登記目録(1)、(2)の登記を受けたこと、藤田太郎が右債務を履行しないので、被控訴人は、登記目録(3)の本登記の数日前に訴外内堀三九郎を代理人として藤田太郎に対し代物弁済予約完結の意思表示をなし、登記目録(3)の本登記をしたことを認めうる。

以上の認定によれば、被控訴人は、右本登記以後本件不動産の所有権取得を第三者に対抗できるし、仮登記の順位保全の効力によつて、仮登記の時以後におけるこれと相容れない中間処分の効力を否定できる筋合である。

よつて、控訴人の主張について判断する。

控訴人は、「昭和三〇年一〇月頃被控訴人と控訴人との間に、控訴人が藤田太郎の被控訴人に対する債務金五七、一二三円を被控訴人に支払うときは、被控訴人がその抵当権設定登記および仮登記を抹消する旨の契約が成立した。」と主張するけれども、(証拠―省略)中控訴人の右主張に添う部分はにわかに措信し難く、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

つぎに、控訴人の公序良俗違反の主張について判断する。原審鑑定人(省略)の鑑定の結果によれば、昭和三三年九月頃の本件不動産の相当価格は金一六〇、三〇〇円程度と認められるが、代物弁済予約が締結されたのは昭和二七年一一月四日であるから、代物弁済予約の目的物の価額と債務額との間に著しい不均衡があるとは認められないし、藤田太郎の窮迫、軽卒または無経験に乗じたものと認めうる証拠もない。

更に、控訴人は被控訴人が本訴請求をなすは権利の濫用であると主張するけれども、権利の濫用を認めるに足る事実は本件全証拠によつても認められない。

したがつて、控訴人の上記主張はすべて採用できず、控訴人は被控訴人に対し登記目録(5)、(7)、(8)の登記の各抹消登記手続をなす義務、本件家屋の明渡をなす義務があり、被控訴人は控訴人に対し登記目録(1)、(2)、(3)の登記の各抹消登記手続をなす義務はない。

最後に、控訴人の留置権の抗弁について考える。修繕費金一五、〇〇〇円の引換給付の点については、被控訴人が不服を申立てていないから判断しない。

控訴人が、藤田太郎より本件建物の明渡をうるため、明渡執行費用、示談金二五、〇〇〇円を支出したとしても、被控訴人に対しその償還請求権を取得する理由がないし、藤田太郎に対しその償還請求権を取得するとしても、右債権は民法第二九五条第一項にいう留置権の目的物「に関して生じたる債権」に該当しないものと解するのを相当とする。したがつて、右金二五、〇〇〇円についての留置権の抗弁は理由がない。

よつて、前記取消した部分を除くその余の部分について、本件控訴を棄却し、民事訴訟法第三八六条、第三八四条、第九六条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

京都地方裁判所第二民事部

裁判長裁判官 小 西   勝

裁判官 乾   達 彦

裁判官 堀 口 武 彦

登記目録(省略)

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